徳田秋聲記念館で出会った素敵な女性たち!和紙人形シアターが面白い!
金箔工芸館からぶらりひがし茶屋街界隈へ
雨と風とで傘はひっくり返って半分壊れるわ、コートは濡れるわで、心が折れかかったところで偶然入った金箔工芸館。
その伝統の金箔作りの工程が凄すぎて、折れかかった心も回復してしまいました。
金沢市立安江金箔工芸館の話はこちら:全国シェア99%!1万分の1ミリの金沢金箔・製造工程がすごい!
県立美術館への道のりをプリントアウトしてくださった親切な受付の方の心遣いに感動し、元気をもらいました。
とりあえず金箔工芸館を出て、近辺にある金箔製品のお店などを覗きながら、そこで見つけたお茶のお店でしばし休憩。
熱いお茶とほっこり番茶のロールケーキで、冷めた体を温めました。
そこからまた雨の中歩いてひがし茶屋街界隈へ。
ひがし茶屋街は、かつて茶屋街としてにぎわった街並みが保存された地域で、重要伝統建造物保存地区となっています。
訪ねた時は石川県にはまだ「まんぼう」が発令中、しかも雨だったので人も混雑というほどではありませんでしたが、それでも他と比べて多くの人が訪れていました。
越前和紙を使った素敵な便箋を売っているお店があったのでお土産にしました。
こちらはあやめ
こちらは梅づくし
こんな素敵な街並みが続きます。
こちらは「志摩」さん。
江戸時代のままに残っているお茶屋の建物は、文政3年(1820)に建てられたそうです。
2階が客間になっていて遊芸を主体としたお茶屋特有の繊細と優美な作りは国重要文化財に指定されているそうです。
志摩さんはこちら:https://ishikawa.fun/3214.html
徳田秋聲記念館へ
ひがし茶屋街から金沢の町の重要河川である浅野川方面に歩いて、県立美術館方面を目指します。
その途中、川沿いに見つけたのがこちら「徳田秋聲記念館」です。
正直、徳田秋聲の作品は読んだことがありませんでしたが、入ってみることにしました。
徳田秋聲とは
徳田秋聲は金沢三文豪の1人で、明治4年(1871)に金沢に生まれました。
金沢三文豪とはこの徳田秋聲と泉鏡花、室生犀星のことをいいます。
秋聲は尾崎紅葉の門下を経て、田山花袋、島崎藤村らと共に明治末期、日本の自然主義文学の代表的作家として文壇に登場します。
その後、明治、大正、昭和と三代に渡り文壇の第一線で活躍しました。
その作品は川端康成が「小説の名人」と言ったほどの技巧の高さと、常に弱者への視点を忘れず、庶民の生活に密着した作風が特徴的。
「新世帯(あらじょたい)」、「黴(かび)」、「爛(ただれ)」、「あらくれ」、「仮装人物」「縮図」などの代表作があります。
私生活ではそのわけ隔てない人柄が多くの文壇人に愛されたのだそう。
映画やダンスも好んだそうです。
徳田秋聲を知らなくても魅了してしまう、そんな素敵な記念館
徳田秋声記念館は2階建ての施設で、入口を入るとすぐに受付、ミュージアムショップがあります。
ミュージアムショップの前から常設展示「光を追うて」のコーナーになっています。
「光を追うて」は秋聲が昭和13年(1938)68歳の時に婦人之友に連載を開始した自伝小説のタイトルです。
秋聲の生涯を6期に分けて、初版本や初出誌、自筆資料など、パネルを駆使して見やすく展示してあります。
また文壇の中心人物として活躍した秋聲をめぐる作家たちのと関係性も紹介されていました。
まだこのコーナーではフムフム、なるほど…程度に見ていました。
「和紙人形シアター」が面白い!
それが一気にこの作家の世界をもっと知りたい!と思わせたのが次の「和紙人形シアター」です。
「光を追うて」の常設展示の横に、ちょっと区切られた円形のコーナーがあります。
それが「和紙人形シアター」です。
モニターの前に台座に乗った五体の女性の紙人形が展示されています。
まずちょっと大きめなこの和紙人形がとても魅力的で興味をそそります。
このシアターでは、秋聲が描いた5人の女性にスポットを当て、和紙人形で再現しています。
秋聲は「女性を書かせては神様である」と言われたそうです。
その5人の女性の和紙人形にひとりひとりスポットライトを当て、モニターで展開するストーリーを見ると秋聲作品に自ずと興味が湧いてきました。
ちなみにこれらの和紙人形は、和紙人形作家・中西京子さんによるものだそうです。
中西さんは独自の美意識と技術を高く評価され、パリ、ニューヨーク、ロンドンなど世界で活躍されているそう。
人形なのに人間以上の心象を映し出す5体の女性が本当に素晴らしいです。
秋聲が描いた5人の女性たち
お銀
明治44年に修整が41歳の時に発表された作品「黴(かび)」。
時代設定は明治35年から36年。
結婚に失敗した経歴をもつお銀。
家庭的幸せを求め、ひたすら耐えて主人公(秋聲)の結婚の決断を待つ、という自らとその妻をモデルにした作品。
お島
大正4年、秋聲45歳の時に発表された「あらくれ」。
時代設定は明治末期で、納得できない結婚から逃れ、紆余曲折にもめげず洋服屋として身を立てようと積極的に行動していく女性を描いています。
洋服屋として、というところにもとても興味が湧きます。
昨年の12月23日が秋聲生誕150周年だったそうです。
それを記念して「朗読劇あらくれ」がちょうどこの3月20日にYouTubeで公開されたと知りました。
まずはこの作品で秋聲デビューをしたいと思います。
YouTubeはこちら:https://youtu.be/u7WuLqxckX8
お絹
大正14年、秋聲55歳の時の作品「挿話(そうわ)」は先ほど歩いてきたひがし茶屋街のことを描いた小説です。
明治初期のひがし茶屋街の繁栄を知る母に育てられ、その街で自らも芸事一筋に静かに生きているお絹の物語。
時代設定は大正13年。
葉子
当時65歳の修整が昭和10年から13年まで連載された「仮装人物」という作品。
時代設定は大正末期から昭和の初期。
自己陶酔に似た感性を持ち、小説家になることに憧れ、主人公(秋聲)を振り回しながら恋愛を重ねる、というストーリー。
昭和14年、秋聲69歳の時にこの仮装人物で第一回菊池寛賞を受賞しています。
何とも興味深いストーリーです。
銀子
「縮図」は昭和16年、秋聲が71歳の時に白山芸妓・小林政子に取材し、連載を開始した作品です。
家族を支えるために芸者として働く銀子。
プライドを失わず、主人公(秋聲)と出会ったのちに置屋を営む、というストーリー。
しかし花柳界を描く作品が不謹慎として情報局の干渉を受けます。
秋聲は「妥協すれば作品は腑抜けになる」と連載を打ち切りました。
作品は未完のまま秋聲の没後に刊行されています。
秋聲作品への賛辞がすごい!
和紙人形シアターと共に、秋聲への興味を掻き立てたのは著名文人の秋聲の作品への賛辞の数々です。
夏目漱石
「秋聲の小説 今日から出申候。文章しまって、新しい肴の如く候。」
正宗白鳥
「彼の生まれながらの素質が、自然主義に適していた」
室生犀星
「実に50年の長い作家生活の間、ときに神技を帯び又描写の極北を示された」
廣津和郎
「概念や観念にとらわれず、自由に、しかも公平に物の急所を衝いている彼の考え方は注目に値する」
川端康成
「日本の小説は源氏にはじまって西鶴に飛び、西鶴から秋聲に飛ぶ」
古井由吉
「とにかく男女の日常の苦と、とりわけその取り止めのなさを描いては右に出るものもいないのではないか」
中上健次
「私が読む秋聲は何しろ自由だ。いきいきしている」
まとめ
偶然入った徳田秋聲記念館が秋聲作品を読んだことのなかった私にもとても面白くて魅了されてしまいました。
そのきっかけは和紙人形シアターのとても魅力的な5人の女性たち。
作品を読んだことのない人を魅了してしまう文学記念館てすごい!